その時、あたしと光平の肩を押して凌が前に出た。


「凌……?」


泣きはらした凌の目は真っ赤だ。


「俺が行く」


迷いのない凌の声にあたしは驚いて目を見開いた。


「冗談でしょう? 今早紀がどうなったか見てたよね?」


思わず、そう声をかける。


「見てたよ。見てたから、今度は俺が行くんだ」


凌はジッと目の前のピアノ線を睨みつけている。


「どうして……」


それでも止めに入ろうとするあたしの手を、光平が掴んだ。


そのまま数歩後ずさりをして凌から離れる。


「俺は早紀のことが好きだった。いつだって守ってやりたいと思ってた。それなのに……!」


凌は一度振り返り、早紀の屍を見つめた。


「こんな大切なときに守ってやることができないなんて……!」


そんなことない。


凌はいつも早紀のことを気にしていた。


それが原因でイジメがひどくなっていることに気がついてからは、早紀と距離を取るようにもなった。


凌はいつでも早紀中心で動いているように、あたしには見えていた。