この前、あたしは梓に前髪を切られた。


あたしにとってはひどく悲しい出来事だったのだけれど、そのまま家に帰ると母親から「あら、美容院へ行ってきたの? いいじゃないその前髪」と、言われてしまった。


鏡を見てみると、確かに梓の腕は上手だと認めざるを得なかった。


でも、とあたしは思う。


あんな切られ方をしたら誰だって嫌だ。


それが原因で他のクラスメートたちにもクスクスと笑われ、蔭口を叩かれた。


だけど、梓はそれに気がつかない。


梓には悪気がないから余計にたちが悪いのに、本人は気がつかない。


梓への対応に困っていると、凌が近付いてきた。


眉間にシワを寄せて梓を見ている。


「また早紀のことイジメてんのかよ」


「はぁ? どこがイジメてんのよ」


梓は怪訝そうな顔になる。


そう、梓はあたしをイジメてなどいない。


梓にそんな気はないのだから。


ただ、梓を発端にしてあたしへのイジメが加速していることは、事実だった。