「な、なに急にでかい声出してんだよ!」


一瞬驚いた表情を浮かべていたが、すぐに気を取り直してノートを開きはじめる。


「やっぱり小説のネタが書いてあるぜ! ダッセー!」


ろくに読みもせずにゲラゲラと腹を抱えて笑いだす。


「返せ! 返せよ!」


動けないくせに唾を飛ばして怒鳴り続ける太一。


「なんだよ、これがそんなに大切か?」


相手はニヤついた笑みを浮かべ、胸ポケットから何かを取り出した。


それがライターだと気がついたのは、火が灯ったからだった。


「なにすんだよ!」


「決まってんだろ。こんな気持ち悪いノート、灰にしてやるよ!」


男が太一の前でノートにライターを近づける。


その瞬間、俺は地面を蹴って男に近づいていた。


ほんの一瞬の出来事だ。


こう見えても足は結構速くて自信があるんだ。


突然出てきた俺に驚き、男がキョトンとした顔を上げる。


「やめとけよ」


低い声で言い、男が持っていたライターをたたき落とした。