「じゃあ沙良は健介の隣によろしく」
「はいはい。まさか本当に汐音の隣に座るなんてね」

「えっ、ちょ……沙良、どこに行くの?」
「瑞樹と席を変わるだけだよ」

「無理無理!早く霧谷退いてよ!」


 ようやく状況を把握できた私は、慌てて隣の男を退かせようとする。

 このままでは本当に隣が霧谷に変わってしまう。


「んー、嫌だ」
「沙良も何とか言って……」


 その時、ふと沙良が不自然に私を置いてバスを降りたことを思い出した。


「もしかして沙良も霧谷と手を組んで……!?」
「ごめんね汐音。瑞樹がうるさくて」

「そんな……」
「てことで目的地までよろしくな」


 満面の笑みを浮かべる霧谷を前に、顔からサーッと血の気が引いていくのがわかる。

 目的地まであとどれほかかるのだろう。
 一刻も早く目的地に着いて欲しいと願いながらも、まだ出発時間すらなっていないことに絶望するほかなかった。