愛恋のキス




「……」


 今の私たちは単なるクラスメイト。
 それ以上でも以下でもない。好きだと自覚してからも、相手に想いを伝えたわけでもないし、伝えられたわけでもない。

 恋人つなぎをしておきながら、実際は付き合っていない。


 ゆっくりと、その大きな手を離す。
 途端に温もりが離れていき、すぐに寂しさに襲われた。


「……藍原ちゃん?」
「早く行かないと見失うよ」

「え……」

「迷ってる暇があるなら行かないと、霧谷はきっと後悔する。それに相手だって……」

「けど、藍原ちゃんは」

「私のことは気にしないで。ここで行かないと私が許さないんだから!」


 わざと大きめの声を出し、霧谷の背中を力強く押す。

 霧谷は振り返って私を見たけれど、そんな彼に笑顔を浮かべてみせた。


 すると霧谷は決心してくれたようで、「ごめん」と謝ったかと思うと、彼はようやく彼女の後を追いかけ走り始めた。

 すぐに姿は見えなくなり、ポツリと一人、その場に取り残される。


 自ら望んだくせに、苦しくてつい口にしてしまう。


「行かないで……」

 その声は誰にも届くことなく消え入り、気づけば涙が頬を伝っていた。