愛恋のキス




 私に代わりは務まらない。きっとまた霧谷は彼女を思い出して傷つき、苦しむのだ。


「……藍原ちゃん」
「えっ、あ……なに?」


 ダメだ、どうしても楽観的な考え方などできなくて、何度も何度も同じことを繰り返し考えてしまう自分がいた。

 考えたところで、苦しさは増すばかりなのに。


 その時だった。
 突然霧谷が私の手を握ってきたのは。

 それも堂々と恋人つなぎだった。霧谷の手は大きくて、私の手を優しく包み込むようにつながれた。


「霧谷、なに急に……」
「……ごめんな」


 ドクンと心臓が嫌な音を立てる。

 ただ照れくさくて。優しいつなぎ方に胸が高鳴り、反射的に口にした私に対して霧谷は突然謝ってきたから。


「藍原ちゃんを苦しませてばっかだよな、俺」


 多分、全部伝わっている。
 私はもっと上手いこと隠せなかったのだろうか。

 隠せていないせいで、霧谷に余計な負担をかけさせている気がしてならない。


「……そんなことないよ」


 私が勝手に苦しんでいるだけで、霧谷はなにも悪くない。


 それに好きという感情を抱いてしまったのは私自身。霧谷はなにも謝る必要などない。