愛恋のキス




「ねぇ」
「……なんだよ」

「怒ってる?」


 いつになく不機嫌な彼を見て、何かしてしまったのだろうかと思ったけれど、心当たりはない。

 ただ声は低いし、軽く私を睨んでいる気もするし……かなり怖い。


「さっ、私たちはお暇しようか春哉クン」
「……うん、そうだね」

「えっ、じゃあ私も……」
「ダーメ。それとも今の瑞樹を放っておいていいと思ってるの?」

「それは……」


 確かに放置は良くない気もするけれど、機嫌の悪い彼を前に私はどうすればいいのかわからない。

 気まずいだけだろうし、私がいたところで……。


「じゃあね瑞樹、汐音」


 ニコニコと笑って別れの挨拶をする沙良に、少し申し訳なさそうな顔をして「またね」と言った西山くんは、本当に帰ってしまった。

 ドアが閉まった途端、部屋の中は瞬く間に静かになり、気まずい沈黙が流れる。