愛恋のキス




 普通に考えて、男と密室空間で二人きりは危ない気がする。


「いや、だから私は帰っ……」
「俺が手も出すかもって不安?」


 もう一度帰ると言おうとしたけれど、霧谷が私の話を遮るようにして口を開いた。

 まさにその通りだったため、素直に頷いた。


「ふはっ、俺ってそんな信頼ないのか。でもまあ、安心してくれて大丈夫。ここ、壁薄いから叫べばすぐに聞こえるし」


 だから手を出すことはないと言いたいのだろうか。確かに壁が薄くて声が聞こえるというのは安心できるけれど……逆に私が「ふざけるな」と叫んでしまえば、それもまた隣人に聞こえてしまうのでは……?


「……」
「てことで藍原ちゃん、どうぞあがって」


 霧谷は笑顔を浮かべていたけれど、どこか作ったような感じがする。

 デートの時に見せた切ない表情や無理して笑う姿を思い出し、あの時と同じ心情なのかなと思った。