「……藍原ちゃんは何も聞かないんだ」


 ボソッと、近くにいる私にしか聞こえない声で呟いた霧谷。


「聞いてほしいの?」

 反応するか悩んだけれど、あえて聞き返してみた。すると霧谷は小さく笑って否定した。


「いいや、聞かないでほしいな」
「なら早く連れて行って」

「ん、りょうかい」


 どこか嬉しそうにも見える霧谷の表情を見て、安心する私がいた。

 きっとこれ以上踏み込まない方がいい。
 そう判断した私は、いつも通りに接しようと思った。


 その後のデートでは霧谷もいつもの調子に戻り、先程の切ない表情は気のせいかなと思うほどだった。

 もう霧谷とのデートは御免だけれど、中々楽しい1日だった。


 週明けからはまたいつも通り霧谷が私をバカにして、私が怒る……そんな日々が始まるだと勝手に思っていた。


 けれど週明けから、霧谷の様子は急変した。