夜になると、奏多(かなた)は家をこっそりと抜け出して街を駆けていく。服はパジャマではなくニットシャツの上に上着を羽織り、スキニーパンツを履いている。これから好きな人に会いに行くのだ。ダサい格好など見せられない。

「あれ、ちゃんとあるよな……」

奏多は呟きながらポケットに手を入れる。きちんと渡したい箱はそこに入っていた。それにホッとしつつ、奏多は再び歩き出す。

奏多の家からかなり離れた場所には、高級住宅街がある。その中でも一番大きな噴水のある白い立派な豪邸の門を、奏多は誰にも気付かれないようによじ登って敷地内へ足を踏み入れた。

「愛華(あいか)ちゃん、ついたよ」

物陰に隠れながら奏多がラインを送ると、すぐに既読がついて「はしごを下ろすね」と送られてくる。奏多が物陰から飛び出すと、ガチャリと二階の窓が開き、ベランダにピンク色のリボンのついたワンピースを着た女性が姿を見せる。その手にははしごがあり、奏多と女性は見つめ合って微笑んでいた。