夏の夜空に、一瞬色を塗っただけで、あっという間に消えてしまう、花火。

 花火は、一瞬だから、美しい。
 花火は、儚いから、美しい。

 こんな風に花火を見ていると、切なくなってしまうな。

 なんでだろう。
 今、無性に、どうしようもなく、

 一ノ瀬先輩に会いたい。

「結希ちゃん。」

 ハッとして、声のした方を振り返ると、驚くぐらい近くに、工藤くんの顔があった。
 工藤くんの頬は、赤に染まっていた。

 見間違いなんかじゃない。
 花火のせいでもない。

 工藤くんの顔は、確実に熱を持っていた。

「工藤、くん…?」
「結希ちゃん、俺、実はさ、」

 工藤くんの右手は、首の後ろを押さえていた。
 照れている。
 何に?

「今日の試合に勝ったら、結希ちゃんに、言おうと思ってたことがあるんだ。」

 工藤くんが、もう1歩、私に近づく。

 彼の顔を、私は改めて見つめる。

 本当にかっこいい。
 爽やかイケメンという言葉は、彼のために存在しているんじゃないか。

 工藤くんの瞳に、私が映る。

「俺さ…。」

 工藤くんの右手が、首から離れる。

 彼は姿勢を正すと、私の目をしっかりと見据えた。
 私も、工藤くんの目を見る。

 私たちの顔が、花火に照らされる。

 時間が、ゆっくりと流れているように、感じた。

「結希ちゃん。」

 工藤くんは、爽やかな声で、優しく言った。



「俺と、付き合ってください。」



 花火のドンドンという音が、やけに小さく聞こえた。