「わあ!かわいい!」
先輩の声がして、私は思わず振り向いた。
すると、先輩は、不機嫌そうに眉をひそめた。
「向こう向いててって言ったじゃん。」
「え、まだ続いてたんですか?」
私が慌てて後ろを向こうとすると、先輩が笑って制した。
「冗談、冗談。」
先輩は、嬉しそうに目を細める。
その手には、茶色いうさぎのキーホルダー。
私も嬉しくなってしまって、目を細めた。
「これ、もらっていいの?」
私がうなずくと、先輩は、これでもかと言うほど、優しく笑った。
「ありがとう、大事にするよ。」
その笑顔を、ずっと見ていたい。
失いたくない。
守りたい。
その笑顔を、私だけのものに。
「一ノ瀬先輩、あの…。」
「うん?」
告白。
そうだ、告白しよう。
先輩、好きです。
どうしようもなく、好きなんです。
先輩のことを考えると、胸がしめ付けられて、夜も眠れないんです。
好きで好きで好きで、しょうがないんです。
「いえ、喜んでもらえて、よかったです。」
「うん。嬉しいよ。」
言えない。
そんなこと、言えるはずがない。
この気持ちは、絶対に言えない。
「じゃあ、またね。」
先輩は、優しく微笑むと、去っていった。
それからすぐに、私は、重大な言い忘れをしたことを思い出した。
『理子に、会ってやってください。』
…今更遅い。
また今度、一ノ瀬先輩に会った時にでも、言おう。
…今度?
今度って、いつ?
次は、いつ、会えるんだろう?
…まあ、いいか。
理子には、適当に謝っておこう。

