理子に一ノ瀬先輩の話をしたのは、6月13日。
 私が一ノ瀬先輩の部屋にあがった、その次の日のことだ。

『理子、あのね。』

 いざ、言おうと思うと、恥ずかしくなってきた。
 でも、言わなきゃ。
 理子には話さなきゃ。

『私、好きな人ができた。』

 理子は、たいして驚かなかった。
 私は、肩透かしをくらったような気分になった。

 もっと大げさにリアクションすると思ったのに…。

『そんなことだろうと思った。』

 理子は、いたって落ち着いた口調で言う。

『で、相手は?やっぱり、工藤くん?』
『違う…。』
『じゃあ、誰…?』
『理子も多分、知ってる人だと思うんだけど…。』

 理子の顔色が、サッと変わった。

『涼ちゃんはやめてよね?』
『分かってるよ。』

 私が苦笑すると、理子は安心したようだった。

『理子、私がスマホを拾ってもらった、イケメンくん、覚えてる?』

 理子は、しばらく考える。

『ああ!あの、声が低めのイケメンくん!覚えてるよ。え、もしかして、その人…?』

 私は、小さくうなずいた。
 なんだか、体が熱っぽい。

『そんな、うちの知らない間に!なんでなんで、どういう経緯?』

 私は、一ノ瀬先輩との出来事について、全部話した。
 理子はその間、ずっと目を輝かせていた。

『素敵!ロマンチックだね!』

 理子は、手を叩いて、まるで自分のことのように喜んだ。

『やっと、結希にも、春が訪れたか~。』
『やっとって…、失礼だなあ。』

 理子は、満面の笑みを浮かべて、言った。

『好きって気持ちは、貴重だよ?その人のこと、大事にしなよ。』