「雨、弱くなってきたね。」

 先輩が、バルコニーに出て、確認する。
 雨は、降っているのか降っていないのか分からないほど、弱くなっていた。

 先輩の部屋の壁かけ時計に目をやると、時計の短針は、7を指していた。

 私ったら、そんな長い間、先輩の部屋にいたんだ。
 確か、ここに来たのが3時半位だったから、かれこれもう、

 3時間半?!

「あ、すみません、お邪魔しました。私はこれで…。」
「待って。」

 慌てて玄関に向かおうとする私の前に、先輩の腕が立ちふさがる。
 も、もしや、これって、

 壁ドン、っていうやつなのでは?

「今日こそは、送らせて…?」

 先輩は、柔らかく微笑んだ。
 私は、顔を真っ赤にしながら、うなずいた。



 エントランスを出ると、一ノ瀬先輩は、紺の傘を広げた。

 そしてそれに、私を入れてくれる。
 …相合傘。

 しかし、あまり大きくはないその傘には、2人が入るには、無理があるように思えた。

「あ、あの、私、傘なら大丈夫ですよ。雨も、そこまで強くないし…。」
「でも、そういうわけにはいかない。」

 先輩は、そういうと、私の肩を引き寄せた。

「ほら、こうすれば、2人入れるでしょ?」

 確かに、私と先輩は、紺の傘の中にすっぽりとおさまった。

 でもこれは、だいぶ……近い。

 先輩の鼓動が、私の体に伝わってくる。
 それぐらいの、距離。

 私の心臓の音も、一ノ瀬先輩に聞こえているんじゃないだろうか。

 先輩、お気持ちはすっごく嬉しいんですけど、私の心臓が持たないです…。

 そのあたりも、考えていただけると…。