正直、気分転換にはならなかった。

 駅の周辺は、日曜日ということもあって、たいへん混雑していた。
 人の波に押し押され、とても散歩どころではなかった。

 私はかなり早めにギブアップして、駅を離れた。

 あんなに晴れていた空は、怪しげな黒い雲に覆われ始めている。
 …降るのだろうか。

 冗談じゃない。
 人の波に流されたうえ、雨にでも降られたら、せっかくの休日が台無しだ。
 気分転換どころか、逆にイライラしてきた。

 とにかく、降られる前に帰らないと。

 あの時、私は、相当焦っていたんだと思う。
 気が付いたら、自宅のアパートとは、全くの逆方向に走り出していた。

 …どこだ、ここ。

 私は、見覚えのない住宅街にいた。

 今来た方向へと引き返そうとすると、余計、迷った。
 嘘でしょ。
 大学生になってまで、迷子になる?!

 慌てて、パーカーのポケットを探る。

 嘘、ない。
 スマホが、ない。

 家に忘れてきたんだ。

 どうしよう、どうしよう。
 落ち着け、私。

 この住宅街は、人通りが少なすぎる。
 とりあえず、どこか、人がいるところに出よう。
 そして、誰かに道を聞こう。

 …でも、どっちに歩いていけばいいんだろう?
 まあいいや、カンで行こう。

 いつかは、知っている所に出るはず。
 完全に迷うなんて、ありえない。

 その考えは、ずいぶんと甘かった。