「大丈夫?」

 後方から、声がした。
 聞き覚えのある、低くて優しい声。

 振り返る。

「一ノ瀬先輩…。」

 一ノ瀬先輩が、心配そうな顔をして立っていた。
 この顔は、本当に心配してくれている。
 違和感が全くない。

「顔、青いよ?」

 一ノ瀬先輩の手が、私の頬に触れる。

「大丈夫?」

 先輩が、繰り返し聞く。

 私の心臓は、通常のスピードで動いている。
 背筋も、もう凍ってなどいなかった。

 不思議だ。
 一ノ瀬先輩といると、落ち着く。
 癒されるっていうのかな。

「大丈夫です……。すみませんでした。」
「なんであやまるの。」

 先輩が、柔らかく笑う。

「いえ…、心配を、かけてしまったかな、と。」
「うん、そうだね。心配した。」
「すみません……。」
「だから、なんであやまるの。」

 先輩が、優しく笑う。
 私も、つられて笑った。

「そんな青い顔してたら、誰だって心配しちゃうよ。」
「すみませんでした。」

 …また、あやまってしまった。

「もう暗いよ。送っていこうか。」

 先輩が、優しく訊ねる。

 確かに、もう外は真っ暗だ。
 1人で帰るのは、怖い。
 それに、私、

 一ノ瀬先輩に、送ってもらいたい。

「先輩、それじゃあ…、」

「彼女は、俺が送ります。」

 後ろから、爽やかな声がした。