「一ノ瀬先輩は、どこかサークルには入っているんですか?」
「…どうして?」

 どうして?
 どうして私は、サークルのことなんて聞いてるの?

 そんなの、決まっているじゃないか。

「私、一ノ瀬先輩に、興味があるんです。」
「え?」
「先輩のこと、もっと、知ってみたいんです。」

 そういうと、先輩は、少しの間ぽかんとした顔をして、次の瞬間、顔をクシャっとして、優しい笑顔になった。

「君、なんだかおもしろい子だね。」
「そうでしょうか…?」
「うん。僕の古い友人に、そっくり。」
「その方も、おもしろい人だったんですか?」
「うん、まあね。」

 そう言うと、先輩は一瞬、懐かしいような、寂しいような、そんな遠い目をして、悲しそうに微笑んだ。

 でもそれは、本当に一瞬のことだったので、私はその表情に、

 気づかなかった。

「僕は、どこのサークルにも入ってないし、これからも、入るつもりはないよ。」
「そうなんですね……。」

 その答えに、なぜか私は、少し寂しくなった。

「君は?どこか入っているの?」
「私は……バスケサークルに、入ってます。」
「バスケ、バスケ……」

 一ノ瀬先輩は、考え込むように、腕を組んだ。

「ああ、涼介(りょうすけ)さんのいるサークルだね。」
「りょうすけ………知っている方ですか?」
「うん、ちょっと。涼介さんに、よろしく言っといてよ。」

 一瞬の沈黙。

 始業のベルが、中庭まで聞こえてきた。

「君、もう教室に行ったほうがいいんじゃない?」
「そうですね……。」

 先輩と別れるのは、なぜかすごく嫌だった。
 でも、もう行かないと。

 私は一礼すると、先輩に背を向けた。

「あ、君!」

 ふいに呼び止められて、振り返る。

「バスケサークル、あんまりいい噂は聞かないから、気を付けたほうがいいよ。」
「噂……?」

 それって、どういうことですか。

 私がそう聞こうとする前に、一ノ瀬先輩は、走り去ってしまった。