雨は君に降り注ぐ


 人を好きになるって、どういうことなんだろう。

 やっぱり、運命ってものを、感じたりするんだろうか。
 この人だ、って、ビビットくるものなんだろうか。

 だとしたら、私はまだ、そんな経験をしたことがない。



 理子と別れて、電車に乗ってから、私は急に怖くなってきた。
 昨日のことを思い出したのだ。

 このまま、最寄り駅で降りたら、また、あの視線があるんじゃないか。
 あの黒フードの人物が、追いかけてくるんじゃないだろうか。

 1度考え出してしまうと、恐怖は止まらなくなった。

 またあの視線が追いかけてきたとき、私はどうすればいい?
 走って逃げればいい?
 でも、昨日みたいに逃げきれなかったら?

 追いつかれてしまったら?
 
 そもそも昨日は、なんで大丈夫だったんだっけ?
 ああ、そうだ。

 一ノ瀬先輩が、助けてくれたんだ。
 ……あれ?

 そもそもなんで、一ノ瀬先輩は、あそこにいたんだろう?

 自宅があのあたりとか?
 だとしたら、私のアパートの近くに住んでいるのかも?

 そうこう考えているうちに、電車は、私の家の最寄り駅のホームへと、滑り込んでいった。

 私は震える足で電車を降り、改札を抜けた。




 あの視線は、……なかった。



 わたしは、ごくごく普通に、帰宅した。