「一ノ瀬は今でも、誰かを愛することに恐れを抱いている。」
涼介先輩は、悲しそうに言う。
「だから、深い関わりを作ろうとしない。誰かと親しくなろうともしない。」
そうか。
だから一ノ瀬先輩は、いつも1人で行動しているのか。
「でも、最近は、彼にも明るさが戻ってきたかな。」
涼介先輩の笑顔に、いつもの柔らかさが戻ってきた。
「それは、他ならぬ吉岡さんのおかげだと思うよ。」
「へっ?」
思わぬ言葉に、呆れるほどまぬけな声が出る。
「わ、私、ですか…?」
「そう。吉岡さんに出会ってから、一ノ瀬はずいぶん変わったと僕は思うよ。この前、一ノ瀬が僕の誕生日を祝いに来てくれたことがあるんだけど、」
新川先輩と最後に会った、あの日のことだ。
「その時も、吉岡さんの名前を出して、楽しそうにしゃべってたよ。」
「え、私の名前を出したんですか?!」
「え、うん、出したけど…。」
どういうことだ。
一ノ瀬先輩は、私の名前を覚えていないのではなかったのか。
「だから、一ノ瀬が吉岡さんのことを嫌いになるだなんて、ありえないと思うけどな。」
「でも実際、私、避けられてるんです。」
涼介先輩は腕を組み、難しい顔をして、大げさに天を仰いだ。
「んー……なんでかなあ。」
真剣に考えこむ涼介先輩をよそに、私は、先程聞いた話を、頭の中で整理しなおしていた。
一ノ瀬先輩は、愛する人を2人も同時に失った。
瑞葵さんと、お母さん。
お母さんは、胃癌で。
瑞葵さんは、自殺で。
引っかかるところがあるとすれば、やはり、瑞葵さんの自殺。
彼女はなぜ、自殺なんか、
「あの、涼介先輩。」
「ん?」
「瑞葵さんが亡くなられる前日や、その辺りに、瑞葵さんの様子がおかしかったとか、悩みごとがあったとか、そういう話を聞いていませんか?」

