雨は君に降り注ぐ


 帰りの電車の中、私はニヤニヤが止まらなかった。

『うち、結希の夢、応援するよ!』

 あの、一点の汚れもない理子のまなざし。
 応援する、なんて言われたこと、今までなかった。

 すっごく、嬉しい。

 最寄り駅の改札を出ると、雨が降っていた。
 
 うそ、天気予報では1日晴れるって言っていたのに。
 あいにく私は今、傘を持っていない。

 まあいっか。
 走れば、家なんてすぐそこだ。
 そう思って、駅から1歩踏み出した、その時、

 私の背筋は凍り付いた。



 視線。

 あの視線だ。

 今まで平和すぎて忘れていた。

 この視線は、2週間前まで、私を追い回していた視線だ。

 あの手紙を送ってきた、ストーカー。

 私の部屋の前に立っていた、あの人。


 怖い。


 気づいた時には、私は走り出していた。

 とにかくここから逃げなくちゃ。
 この視線から離れなくちゃ。

 駅前の大通りを、私は全力で走る。
 雨の中を必死に走る。
 人混みの中をかき分けるように走る。

 途中、たくさんの人にぶつかった。
 たくさんの人の視線が、私に注がれる。

 こんなにたくさんの人に見られているのに、私にはまだ、あのストーカーに見られている、という感覚があった。

 たくさんの視線、その中でも、ひときわ強い視線。

 まだ追いかけてきている。

 引き離せない…!