「へぇ、陸上!僕も中学の時は、陸上部にいたんだよ。」
その斉藤先輩の声で、私は我に返った。
頭が痛い。
昔のことなんて、思い起こすんじゃなかった。
「じゃあ、2人とも、バスケ経験はないんだね?」
「あ、あの…あたしはなるべく、マネ~ジャ~希望です。」
理子の一人称は、まだ『あたし』だ。
この子は、イケメンの前では性格が変わるのか。
「マネージャー希望ね。わかった、検討しとく。今、うちのサークルにマネージャーはいないし、大丈夫だと思うよ。…君は?何か、希望はある?」
「私は普通に、バスケやりたいです。あ、でも、そんな本気でやりたいわけじゃなくて、趣味、みたいな感じで。」
「うん、わかった。それじゃあ、僕の方で入会手続きをしておくよ。明日、またこの時間にここに来てくれるかな。詳しい説明はその時に。」
「はい。ありがとうございまぁす。」
語尾にハートが付きそうなくらい甘い声で、理子が答えた。
斎藤先輩は軽くうなずくと、休憩中の男子メンバーのほうを振り返って言った。
「今日、工藤って来てるかな。」
声をかけられた男の子は、少し考えてから答えた。
「今日はバイトがあるって、先に帰ったと思います。」
「そっか……、ありがとう。」
斎藤先輩は少し残念そうな笑みを浮かべて、私たちに向き直った。
「うちに工藤ってヤツがいるんだけど、あ、うちのエースね。今日はそいつのことも紹介したかったんだけど、あいにくいないみたいだから、」
斎藤先輩は、少し考えてから、
「また今度紹介するから、今日はもう帰っていいよ。」
と、言った。
斉藤先輩の、女子が1度に1000人くらい死にそうなキラースマイルに見送られて、私と理子は体育館を後にした。

