1秒1秒が、とてもゆっくりと感じられる。
 まるで、私たちの周りだけ、時間が止まってしまったような。

 一ノ瀬先輩の唇が、離れる。
 と思ったら、次の瞬間、もう1度私の唇がふさがれた。

 顔が熱を帯びていく。
 心臓の音が大きくなる。

 唇と唇が重なっているだけの、優しいキス。

 それでも、私にとっては初めての経験。
 しかも、相手は一ノ瀬先輩。

 私は今、一ノ瀬先輩と、キス、している。

 甘い。

 どこかで読んだ小説に書いてあったたとえ。

 甘い。

 ファーストキスって、本当に甘いんだ。

 雪のような口どけで、苺の味がする。
 それとも、一ノ瀬先輩とだから、こんなに甘くて優しい味がするのかな…?

 一ノ瀬先輩の唇が、再び離れた。

 左頬に、優しいキス。
 右頬に、甘いキス。
 おでこに、酸っぱいキス。

 そして唇に、とろけるようなキス。
 長い長い、濃厚なキス。

 一ノ瀬先輩が、私の目を見つめる。

 その顔は、若干ではあるが、赤みを帯びていた。
 多分私の顔も、同じくらい、赤い。

 突然、一ノ瀬先輩の腕が、私から離れた。
 と言うより、飛びのいた…?

 一ノ瀬先輩は、自分の唇に自分の腕を当てると、上目遣いでこちらを見た。

「ご、めん…。驚いた?」

 震える声で、そう聞いてくる。

 どうやら、先輩はテンパっているようだった。