雨は君に降り注ぐ


 駅前のコンビニにでも行こうと思っていた。
 何かパンでも買って、それをイートインで食べながら、自分の気持ちを落ち着けようと思っていた。

 財布を忘れたことに気づいた時には、、すでにコンビニの目の前まで来てしまっていた。

 涙はいつの間にか止まっていた。
 代わりに、私の頬は、雨水によって濡らされていた。

 私は、コンビニの前で立ち尽くした。

 何も買う予定が無いのに入店するのは、さすがにためらわれる。

 それに今私は、頭からつま先までずぶ濡れだった。
 パーカーのフードは、予想通り、雨よけの役割は果たしてくれなかったのだ。

 雨は、だんだん強くなっていた。

 夏とはいえ、夜の雨。

「寒い…。」

 このままでは、風邪をひいてしまうかもしれない。

 帰ろう。
 帰ってシャワーを浴びて、暖かい布団で眠ろう。
 そして、母の夢を見よう。

  そうするしかない。

 母はもう、この世界にはいないのだから。
 いつまでも悲しんで自分を責めていたって、何も変わることなんてない。

 私は、きびすを返して、再び夜の闇へと足を踏み出す。

 と、自動ドアの音がした。
 続いて、店員の「ありがとうございましたー。」の声。

 コンビニから、誰かが出てきたのだ。

 私は、何気なく振り返った。
 そして次の瞬間、目を見開いた。

 私の視線に気づいたのか、コンビニから出て来たばかりの彼が、私を一瞥する。
 そして、私と同じように目を見開く。

 一瞬の沈黙。

 私の口から出てきた言葉は、分かりやすく震えていた。

「一ノ瀬、先輩…。」

 私、また泣いてる。

 そう気づいたのは、一ノ瀬先輩が私に駆け寄り傘をさし出した、そのだいぶ後だった。