雨は君に降り注ぐ


 枕から顔を上げて、声のした方を見る。
 探すまでもなく、その人はすぐに見つかった。

 ベッドのすぐそば、カーテンのかかった窓の前に、その人は立っていた。

「…母さん。」

 そこには、母が立っていた。
 穏やかな笑みを浮かべて、母が立っていた。

 …幽霊?

 まあ、そんなことどうでもいいか。

 母が、今、目の前にいる。
 私が会いたいと願ったから。

 目の前にいるこの人が、幽霊だろうとなんであろうと関係ない。

 私は、伝えたかったことを言うんだ。

 勝手に家を飛び出して、ごめんなさい。
 私のことを大切に思ってくれて、ありがとう。

 謝罪と感謝を。

「母さん、私、あのねっ、」





 そこで、目が覚めた。

 視界に入ってくるのは、見慣れた天井ばかり。
 この部屋には、当たり前のように、私しかいない。

 さっきのは全部、夢。
 私の願望と欲求が作り出した、妄想。

「そりゃ、そうだよね…。」

 そう呟いてから、私は、まだ自分が泣いていることに気づいた。
 頬に触れると、指先がわずかに濡れる。

 眠っている間も、ずっと泣いていたのか…。

 スマホの電源を入れて、時刻を確認する。
 その間も、涙はずっと止まらなかった。

 午後9時20分。

 …私、12時間近くも眠っていたのか。

 カーテンを開け、窓の外をのぞく。
 当然真っ暗だった。

 その夜の暗闇を見た途端、胸が痛んだ。

 チクチクするような、嫌な感覚。
 おまけに吐き気まで襲ってくる。

 私、おかしくなっているんじゃないか。
 母を失ったショックで、狂い始めているんじゃないか。

 涙はまだ止まらない。