雨は君に降り注ぐ


 一ノ瀬先輩も、辛かったのだろうか。

 私は、涼介先輩の言葉を思い出す。

『一ノ瀬の家はシングルマザーで、子供も一ノ瀬1人だけで、発見が遅れた。癌が見つかった時には、もう、どうしようもなかったそうだ。』

 一ノ瀬先輩の母親も、癌で亡くなっている。

 一ノ瀬瀬先輩も、今の私のような痛みを感じたのだろうか。

 もしも、自分がもっと早く母親の異変に気付いていたら。
 そう考えて、自分を責めたりしたのだろうか。

 …いや、違う。

 一ノ瀬先輩はきっと、私より苦しかったはずだ。

『一ノ瀬の家はシングルマザーで、子供も一ノ瀬1人だけで、発見が遅れた。』

 そう、一ノ瀬先輩には、母親以外に家族がいなかった。
 母親が逝ってしまってから、一ノ瀬先輩は1人になってしまったんだ。

 きっと、たくさん傷ついただろう。
 たくさん自分を責めて、たくさん苦しんだんだろう。

 私よりもずっとずっと、先輩は。

 また、涙がこぼれる。
 止まることなく、私の頬を濡らしていく。

 取り返しのつかないことだけど。
 分かってはいるけれど。

 もう1度、母に会いたい。
 会って、伝えたい。

 今までごめんね。
 愛して育ててくれて、ありがとう。

 謝罪と感謝を。

 1度でいいから。

「結希。」

 どこからか、声がした。