本当は分かっていた。
母が、不器用だったことも。
母が、私を愛していたことも。
テストでいい点を取りなさい。
宿題はすぐに終わらせなさい。
塾へ行きなさい。
テレビは見てはいけません。
ゲームももちろんダメです。
とにかく勉強をしなさい。
私に、そう言い続けてきた母。
それは、私を嫌っていたからではない。
母は、結果だけを求めていた訳ではない。
母は、自分と同じ苦労を、娘に味わって欲しくなかっただけなのだ。
高校卒業後、ブラック企業に就職した母。
過労の末、ついには倒れてしまった母。
私に、そんな苦労をしてほしくないから。
その思いの結果、母は、私に勉強を押し付けるようになってしまった。
とにかく、少しでもいい学歴を。
そういう考えがあって、母は私を桜庭学園に入れたのだ。
でも、だからと言って、母は私に良い成績だけを求めていた訳ではない。
母は確かに、私のことを愛していた。
私は確かに、母に愛されていた。
ただ、母は少しばかり、愛情表現が不器用だっただけ。
そんなこと、ずっと前から知っていた。
でも私は、そんな母のことが気に入らなかった。
だから、突っぱねた。
なんで、私に勉強ばかり押し付けるの?
テストでいい点数を取ることが、そんなに大事なの?
いい学校に入ることが、そんなに大事なの?
その『いい学校』で、私がいじめられてもいいって言うの?
私は嫌だよ。
私は、私の好きなように行きたい。
だから、母さん。
少しは私の言葉も聞いてよ!
私のこともちゃんと見てよ!
もっともっと、私を愛してよ!

