透き通るような、高くて、聞き心地の良い声がした。

 私と理子は、声のした方へ、同時にふり返った。瞬時に、

「ッはい!そうです!」

と、理子が言った。

 …ん?入会希望?
 いえ、私たちはまだ、今日は見学で、

「大歓迎です。僕は3年の、このサークルのキャプテンをやっている、斉藤といいます。」

 どうやら話は、入会の方向で進んでいってしまっているようだ。
 理子は、さっき『雰囲気を見てから考える』と言ったことなど、とっくに記憶の内から消去してしまっているようだ。

 まあ、それならそれでもいいか。

 私は、半ば諦めの色を顔に浮かべながら、斉藤先輩という人と、目を合わせた。

 息を、のんだ。
 斉藤先輩は、それはそれは、きれいな顔をしていた。

 先週、私のスマホを拾ってくれたハンサム君よりも、さらに上を行く顔。
 こんな人が身近にいたなら、たいていの男子は、自分に自信が持てなくなってしまうことだろう。
 これが、あの理子を、軽い記憶喪失にさせた顔。

 まるで、童話の中から飛び出してしまった、王子様みたいだ。


「じゃあ、2人とも、自己紹介をお願いできるかな。簡単でいいから、名前と、学年と、あとできれば、高校でやっていた部活動も。」

「あたし、1年の小澤理子です。高校では、サッカ~部のマネ~ジャ~やってました。」

 なんだ、サッカーはやってたことがあるって、まさか、マネージャーのこと?
 それって、やってたって言わないんじゃない?

 いや、それ以前に、『あたし』?!

「君は?」

 斉藤先輩が、女子を1度に100人くらいは殺せそうなキラースマイルを私に向けて、訊ねてきた。

「同じく1年の吉岡(よしおか)結希です。部活は、中高、陸上をやっていました。」

 そう、陸上。

 その言葉を口にした途端、さっきまで忘れていた、思い出したくもない黒い記憶が、私の脳内に一気に押し寄せてきた。