「何?」
新川先輩の、普段の笑顔からは想像できない、低くて暗い声。
「その足を…どけてください。」
私から発せられた声も、恐ろしく低かった。
新川先輩は、こちらをにらみ付けながらも、彼女の足はまだ、高井先輩の右手を踏みにじっている。
「何の用?」
新川先輩は、私の言葉に耳もくれず、同じ質問を投げかける。
…まったく。
何をしているんだ、この人達は。
大学生にもなって、何がいじめだ。
成人済みの女性がよってたかって、一体何をしているのだ。
…くだらない。
私の中で、何かがふつふつと湧き上がる。
「その足をどけてくださいと言ったんです。」
新川先輩は、顔色1つ変えずに、足をどけた。
「これでいいの?」
冷ややかな笑みで、そう訊ねる。
「それ、」
理子が、女子の1人の手元を指さした。
そこには、高井先輩から盗った現金が握られている。
「…盗ったんですよね。犯罪じゃないですか。」
気のせいか、理子の声は少し震えていた。
「別に、犯罪なんかじゃないわよ。ちゃんと、楓の許可があって、もらったんだから。」
理子に指さされた背の高い女子が、バカにしたように言う。
「もらった?」
理子の眉が、ピクリと動く。
「とてもそうは見えませんでしたけど?」
「そんなことないわよ、ね、楓?」
高井先輩の髪の毛をつかんで、無理やりうなずかせる。
「ほら、楓もそう言ってることだし、あんたたち、もう帰ってくれない?」

