雨は君に降り注ぐ


 体育館の中は、予想通り、蒸し暑かった。
 そこにいるだけで、汗が吹き出してくる。

「あれ、涼ちゃん1人?」

 そこには、涼介先輩の姿があった。
 それ以外のメンバーは、どこにも見当たらない。

 涼介先輩はこちらに気付くと、手を上げて、整った顔を優しく微笑ませた。

「今、工藤が飲み物を買いに行ってる。すぐ戻ると思うよ。」
「工藤くんと涼ちゃんしかいないの?」

 理子がそう聞くと、涼介先輩は、寂しそうに笑った。

「そうなんだよ。みんな、暑いからって練習には来たがらなくて。」

 すみません、涼介先輩。
 私もそのクチです。

 だって今年は、死にそうなくらい暑いから…。

「小澤さんも吉岡さんも、いつでも練習、来ていいんだからねっ。」

 涼介先輩にそういわれて、私は思わず目をふせた。
 なんだか、罪悪感がわきあがってくる。

 すみません、涼介先輩。
 この夏は、もう、この体育館には来たくありません。

 いくらなんでも、サウナより暑い体育館なんて…。

「あ、そういえば、さっきまで、新川さんと高井さんがいたな…。」
「えっ…。」

 しばらくの沈黙。

「え、何、僕、変なこと言った?」
「高井先輩と新川先輩、いつまでいたんですか?!」

 思わず、大きな声が出る。
 涼介先輩は、一瞬たじろいだが、すぐに答えてくれた。

「ついさっきまでだよ。2人同時に帰ってったよ。新川さんが、高井さん連れてどこか行く、みたいなこと言ってたと思うけど…?」

 ものすごく、嫌な予感がする。
 きっと今、私が想像していることと全く同じことが、どこかで起きているような、そんな気が…。

「理子、」
「結希、行こう。」

 そう言うなり、理子は私の手首をつかんで、体育館を飛び出した。
 ポカンとした涼介先輩が、そこに1人残される形になった。

「理子、私、」
「分かってる。うちも今、すごく嫌な予感がしてる。」