「楓自身が、うちらのことを拒んだんだからさ。これ以上は、…やめよう。」
分かっているけれど、それをそのまま、言葉にしてぶつけられると、何かが刺さったかのように心が悲鳴を上げる。
「本当に、大丈夫かな…。高井先輩、無理してないかな?」
「そんなの、誰にも分かんないじゃん。」
理子の声が、少しとがっている。
「もうこれ以上は、楓のことを考えるのはやめよう?本人がああ言ってるんだし、多分、うちらに話したことで、少しは楽になったと思うし。」
私は、何も言えなかった。
そりゃあ、話すことで楽になることもあるだろう。
でも、そんなことで、いじめの痛みから逃れられるとは、私にはとうてい思えない。
私が黙りこくっていると、理子が、まくしたてるように言う。
「うちも結希も、できるだけのことはやったと思うよ。そのうえで、楓に拒絶されたんだから、もう…しょうがないじゃん。」
しょうがない。
私には、その言葉がどうしても、逃げるための都合のいい言い訳にしか聞こえなかった。
それで、本当にいいのか。
「うん、そう、だね…。」
そう言うしかなかった。
この件は、もう終わりだ。
私たちは、やるだけのことはやったんだから。
もう、『しょうがない』んだよね。
私と理子は、学食を後にする。
このまま、体育館に戻り、何事もなかったかのように、練習を再開する。
いじめの件なんてすっかり忘れて、いつも通りに過ごす。
何事もなかったのように、日常を繰り返す。
きっと、明日も、明後日も。
これから、ずっと、ずっとずっとずっと。

