雨は君に降り注ぐ


「結局、何にもできないのかな。」

 小さくなっていく高井先輩の背中を見つめながら、私は呟いていた。

「そうだね…。本人も、自分で何とかするしかないって言ってたし…。」

 理子の声も、どこか力なく聞こえる。

 結局、何もできない。

 いじめがあるという事実、その主犯は新川先輩だということ。
 そこまで分かっているというのに、私は、何もすることができない。

 高井先輩は、これからどうするつもりなんだろう。

『やっぱりぃ、こういう事は、自分で何とかしなくっちゃぁ。』

 その言葉は、どういう意味なのか。

 …なんて、そんなの、分かりきっている。
 高井先輩は、できるだけ優しく、オブラートに、『もうこの件には関わるな。首を突っ込むな。』と伝えてきたのだ。

 やっぱり、迷惑だったんだ。

 高井先輩は、私たちに、これ以上詮索させたくなかった。
 だから今日、会いに来て、全てを話してくれた。

 それでも、私には、引っかかっていることがある。

『助けてください……。』

 そう言った時の高井先輩の表情を、私はよく覚えている。

 あれは、確かに、助けを求めている人の顔だった。
 高井先輩は、本当は、私たちに何とかしてもらいたいんじゃないか。

 それは、ただの思いあがりか。

 でも、それでも、私は、

「高井先輩の、力になりたいよ…。」

 いじめがどれほど苦しいことか、辛いことか、知っているからこそ、力になりたい。
 何とかしたい。

「うちらにできることは、もう無いよ。」

 理子が、はっきりと言う。

 分かっている。
 これ以上は、私たちには、何もできない。

 何かをしようとすれば、それは、高井先輩の迷惑になる。

 分かってるんだ。