「でぇ、どうやら新川さんは、颯真くんに気があるみたいなんですぅ。」
それも、なんとなく予想がついていた。
となると、いじめの原因はそれか。
恋愛感情のもつれと嫉妬からくる、いじめ。
…なんてくだらない。
「それでぇ、颯真くんと仲のいいあたしのことが気に入らないみたいでぇ…。とにかく、始まりはそんな感じでしたぁ。」
高井先輩は、1つ、ため息をついた。
「最初のうちは、小さな嫌がらせとかぁ、ちょっとした陰口程度だったんですけどぉ、最近は、どんどんエスカレートしてきててぇ……。」
私は思わず、高井先輩の細い腕に、視線を移す。
そこには、赤黒い痛々しい痣が、いくつも連なっていた。
私が、更衣室で見たその痣は、決して見間違いではなかったのだ。
「ここのところは、暴言とか暴力は当たり前でぇ、それで…。」
高井先輩は、また涙目になる。
「もう、キツくてぇ、限界みたいなのも感じててぇ、どうしたらいいか分からなくってぇ…。」
頬を伝う涙をぬぐって、高井先輩は、にっこりと笑って見せた。
その笑顔が、あまりに悲痛に歪んで見える。
「ごめんねぇ。後輩にこんなこと言ったって、仕方ないことは分かってるんだけど、ねぇ。でも、話したことですっきりしたしぃ、聞いてくれてありがとう。やっぱりぃ、こういう事は、自分で何とかしなくっちゃぁ。」
悲しい笑顔でそういう高井先輩に、私たちは、何も言ってやることができなかった。
『大丈夫ですよ。』じゃ、おかしい。
『頑張ってください。』は、もっと違う気がする。
私は、何もできない。
学食から去っていく高井先輩を見送るくらいしか、できない。

