「高井先輩…。」
私は、目を見開いた。
まさかこんなところに、当事者が表れるなんて。
奇跡もいいところだ。
でも、なんで。
なぜ、高井先輩は今、こんなところにいる?
先程まで、体育館で、新川先輩とドリブルの練習をしていたはず…。
ん?
何かがおかしい。
なぜ、いじめている側といじめられている側が、一緒に仲良く練習などしているのだ。
私は、理子の言葉を思い出す。
『仁菜は、表では「いい子」を装っているけど、裏には「悪魔」の顔を持っている。』
ああ、そうだ。
新川先輩は、2つの顔を持っているんだ。
きっと、誰も見ていないところで、誰も知らないところでいじめを行っているんだ。
あの、ロッカーの中のように。
だから、誰も、高井先輩のいじめに気が付かない。
「この間は、すみませんでしたぁ。」
高井先輩の声は、いつものように甘い。
ただ、今日の声には、どこか元気が無い。
しかも、敬語だ。
「あたしぃ、あの日イライラしてて、色々失礼なことを言っちゃいましたぁ。」
「いや、それは、こちらこそだよ。」
理子が、慌てて頭を下げる。
「ごめんね。いきなり変な質問しちゃって。」
「いや、そのことは、もう気にしてないんですけどぉ。」
高井先輩は、少し気まずそうな顔をする。
「今日はぁ、お願いを言いに来たんですぅ。」
私は、思わず身構えた。
高井先輩の顔が、ゆがみ始めていたからだ。
「助けてください……。」
消え入りそうな涙声で、彼女はそう言った。

