「問題は、これからよね。楓自身は、助けが欲しいみたいなわけには見えなかったし、いじめがあるっていう事実も、あやふやだし…。」
理子は、更衣室でのことが相当頭に来てるのか、高井先輩のことを呼び捨てにしている。
私たちが作戦会議を立てているここは、とある喫茶店。
客足は少ないが、静かで、落ち着ける空間である。
カウンター席に理子と並んで座り、コーヒーを飲みながら(理子はサンドイッチを食しながら)、これからのことを考えている。
「いじめはあるよ。私、ロッカーの中を見たもん。」
「でも、それが仁菜ちゃんのしわざってのは、結希の勘なわけでしょ?」
「そうだけど…。」
そう、ただの勘なのだ。
新川先輩が、あの時、更衣室から出て来たばかりのようだったから、目が笑っていなかったから、私は、高井先輩のロッカーを荒らした犯人は、新川先輩だと思った。
もちろん、それが事実である可能性はある。
しかし、それと同時に、私のただの思い込み、という可能性だってある。
「確証が薄すぎるんだよなあ…。」
理子は、眉間にしわを寄せ、そこを指で押さえながら、考えている。
そんなポーズをとられると、余計に、あの有名な小学生探偵に見えてくる。
「とりあえず、しばらくは様子見かな。夏休みももうすぐだし。」
「えー、ほうっておくの?」
私が不満そうな声を上げると、理子は軽く笑った。
「そういう事じゃないよ。うちは、楓と仁菜ちゃんについてのことを、あちこちに聞いて回るつもり。情報集めってやつ?」
私の頭に、『事情聴取』という単語が浮かぶ。
「だから結希は、情報が集まるまでの間、少し待っててよ。」

