高井先輩の声は、はちみつのように甘い。
 私は、その声も高井先輩の魅力だと思うが、理子は嫌なようだった。

 理子は先程から、分かりやすく、高井先輩へ嫌悪を抱いている。
 ぶりっ子が苦手なのだろうか。

「実際、いじめはあるの?」

 理子の声が、どんどん強くなっていく。

「さあ、知らないわよぉ。」
「そんなわけないでしょ?」
「何ぃ?マネージャーさんは、あたしがいじめの主犯だぁーとか、言いたいわけぇ?」
「違う。知ってるかどうか知りたいだけ。」

 2人の会話は、はたから聞いていると、尋問というより、口喧嘩に聞こえる。

「だからぁ、知らないってばぁ。」
「じゃあ、そのロッカーの中でも見せてくれる?!」
「いい加減にしてよぉ!!」

 突然、高井先輩が声を荒げた。
 理子がわずかに後ずさる。

「人のプライベートを、勝手に探らないでくれるぅ?!」

 高井先輩は血相を変えると、私の脇をすり抜け、乱暴に更衣室を出て行った。
 ドアが、けたたましい音を立てて閉まる。

「…なんなのよ、あれ。」

 理子が、声を震わせて呟く。
 相当頭に来ているらしい。

「うち、ぶりっ子って人種が、1番嫌いなんだけど?!」
「ごめん理子、もういいよ。この件には関わらなくて…。」

 やはり、理子に声をかけたのは、間違いだったか。
 私が落ち込んでいると、理子が背中を叩いてきた。

「いや、そんなわけにもいかないよ。今のは、うちも言いすぎちゃったし。どんなぶりっ子だったって、いじめるっていうのは、やっぱり違うと思うから。」
「理子…。」

 やはり、理子に声をかけたのは、正解だった。
 彼女は、ぶりっ子こそ嫌いなようだが、高井先輩のことを、ちゃんと考えてくれている。

「そうだよね…。私も、何があっても、いじめは悪いことだと思う。」

 きれいごとに聞こえるが、やはり、悪いことは悪いことだと、そう思う。