なんて優しい言葉。
 私にはもったいないくらい。

 私は、工藤くんにお礼を言うと、彼に背を向けて歩き出した。

 向かう先は、ただ1つ。

 バスケサークル。

 要するに、体育館のことだ。

 そこで、高井先輩に会う。
 そして、事実確認と、高井先輩の正直な気持ちを聞く。

 もしかしたら、大きなお世話かもしれない。
 迷惑がられるかもしれない。

 でも、私の気持ちは、このままではおさまらない。

 自分の所属サークルで、いじめが起きているということを知りながら、見て見ぬふりをするなんて、そんな真似、私にはできない。

 そうは思うものの、正直なところ、怖い。

 高井先輩に拒絶されることも、もちろん怖い。
 バスケサークルでのいじめが終わらなくなってしまうのも、嫌だ。

 でも、私が、何よりも恐れているのは。

 高井先輩の事情に首を突っ込むことで、状況が変わって、私が、いじめのターゲットになってしまったら。
 中高で味わったあの痛みが、もう1度繰り返されるようになってしまったら。

 そこまで考えて、私は深くため息をついた。

 結局、そうなるのか。

 高井先輩のことを心配するふりをして、自分のことを守っている。
 高井先輩を助けたいと思うことで、自分の中の罪悪感を消している。

 いじめを消したいくせに、自分がいじめられることを案じている。

 結局私は、自分のことばかりだ。

 高井先輩のことを助けたいと考えるなら、それなりのリスクも覚悟するべきだ。
 自分がいじめのターゲットにされることだって、予想しておかねばならない。

 それができないのなら、私は口先だけの人間だ。

 考えるだけで、行動に移すことのできない、愚か者だ。