そう。
 心から、そう思っている。

 要するに、今の私は、思っているだけなのだ。

 先ほどは、高井先輩を助けたいだとか、いじめを終わらせた位だとか、漫画のヒーローまがいのことを考えたりもした。
 考えた、だけなのだ。

 口先だけの正義感なんて、誰でも語れる。
 問題は、そこから先。
 その正義感を、実際に表せるか。

 行動に移せるか。

 私が、高井先輩のためにできること。
 それを、行動に移す、勇気。

 私は、相当難しい顔をして歩いていたんだと思う。
 廊下ですれ違った工藤くんに、心配そうに声をかけられた。

「何か、悪いものでも食べたの?」

 1番最初にかける言葉が、それか。
 私ってそんなに、変なものを食べそうな感じなの?

「…食べてない。」

 私が困惑気味に答えると、工藤くんは、首をかしげる。

「…何か、あった?」

 何かは、あった。
 でも、それを工藤くんに話してしまうのは、ためらわれる。

 勝手に高井先輩たちのことを言いふらすのは、当然いいことではないのだから。

「…何もない……。」

 私がそう答えると、工藤くんは、悲しそうな笑みを浮かべた。
 その笑みには、いつもの爽やかさは存在しなかった。

「俺さ、結希ちゃんのこと、…好きなんだよ。」

 私の胸が、チクリと痛む。

「だからさ、結希ちゃんに、そんな悲しそうな顔、してほしくないんだ。何か悩みがあるんだったら、できるだけ、俺に相談してほしいし、…俺にできるなら、何とかしてあげたいし、さ。」

 工藤くんの言いたいことは、よく分かっている。
 工藤くんの気持ちだって…。

 でも、こればっかりは、どうしても相談できないんだ。

「ありがとう。でも…本当に大丈夫だから。心配しないで。」

 私がそう言うと、工藤くんの笑みは、見ていられないほど悲痛なものになった。

「そっか。…でもさ、結希ちゃんが本当にどうしようもない時は、遠慮せずに俺に相談してよ?」