先輩は、相変わらず、優しく微笑んでいた。

「そうだね。親しくしている人は、多くないかな。」

 それは逆に言うと、少しはいるってことですか。
 それはやはり、彼女さんのことなんですか。

 一ノ瀬先輩は、低く優しい声で、こう付け加えた。

「僕は、今1番親しい友人は、君だと思ってるけど。」

 ありえないくらい嬉しい話だ。
 いつもの私なら、舞い上がっていたことだろう。

 でも、

『友人』

 その言葉が、私の胸に強く突き刺さる。

 やはり、そこまでなんですね。
 私は、一ノ瀬先輩にとって、『友人』以上の存在にはなれないんでしょうか。

「君は、そうは思わない?」

 思いません。

 私にとって一ノ瀬先輩は、親しい友人、なんかじゃない。
 私にとって、一ノ瀬先輩は、

 片思いの相手、なんです。

「私も、そう思っていますよ。先輩のことを、親しい友人だと。」

 けれどもこの場で、告白まがいのことを口にするわけにはいかない。
 そんなことを言って、先輩を困らせてはいけない。

「ところで先輩。私、聞きたかったことがあるんです。」

 ここからが、本題。
 私が、先輩に会いに来た理由。

「だいぶ前の話になるんですけど…。私が先輩と知り合ってすぐに、先輩がこう言ったの、覚えてます?バスケサークルは、あんまりいい噂は聞かないから、気をつけろって…。」