でも、今日の高井先輩は、何かが違っていた。
雰囲気が、違う。
いつもは、自信満々で、キラキラしたオーラをまとっているのに、今は、それが全くない。
何かに怯えているような、そんな目をしていた。
「高井、先輩…?」
思わず、声をかけてしまった。
何やってんだ、私。
声をかけて、その後なんと言うつもりだ。
高井先輩が、ゆっくりと、こちらを振り返る。
私は絶句した。
何も話題が無かったから、という訳ではなく。
驚いたからだ。
高井先輩の右目から、雫がこぼれ落ちた。
彼女の唇は、細かく震えていた。
「え、高井せんぱ…、」
私が言い終わる前に、高井先輩は、更衣室を飛び出していった。
その時、私の体を押しのけた高井先輩の腕も、同じく細かく震えていた。
気のせいだろうか。
その震えていた腕に、
赤黒い痛々しい痣が、無数に残っていたように見えたのは。
更衣室には、私1人しかいない。
そして、高井先輩のロッカーは、開けはなしたままだ。
私は、そのロッカーに、恐る恐る近づいた。
もちろん、何か盗ってやろうとか、そんなやましい気持ちがあるわけではない。
ただ、私は、知りたかった。
高井先輩が、怯えていた訳を。
高井先輩が、泣いていた訳を。
このロッカーの中に、そのヒントになるものがあるかもしれない。
そう思い、私は、高井先輩のロッカーの中を、のぞき見た。
「え…。」
私は、目を見開いた。

