工藤くん。

 なんて優しい人なんだろう。

 私はこんななのに。
 優柔不断で、気の弱い最低女なのに。

 工藤くんの告白を、承諾することも、断ることもできていないのに。

 それでも彼は、私のことを、大切だって言ってくれている。
 好きなんだと。

 でも、私は、工藤くんの想いに応えることができない。

 私には、好きな人がいるから。

 だから、断らなきゃいけないのに。

 工藤くんが傷つくのが、自分が傷つくのが怖くて、言葉が出てこない。
 なんで私は、自分のことばっかり…。

 私の頬を、熱いものが伝う。

 涙。

 嫌だ。
 こんなところで泣くなんて。

 工藤くんを、困らせてしまう。
 最低だ。

「結希ちゃん…。」

 工藤くんが、優しく言う。

 その爽やかな笑顔は、涙でよく見えない。

「ごめんな。俺の気持ちだけを押し付けちゃったから。…困るよな。」

 違う、違うの。

「結希ちゃんは、何も悪くないのにさ。」

 違う。

 私が悪いんだよ。
 自分の気持ちさえ口にできない、弱い私だから。

 そう言おうと思うのに、口が開かない。
 代わりに涙が、次から次へと溢れる。

「好きな女の子を泣かせちゃうなんて、俺、最低だよ…。」

 突然、私の体が、温かいものに包まれた。


 工藤くんの腕が、私をしっかりと抱きしめる。
 その力は、強くも弱くもなく、ただただ心地よかった。

「ごめんな…。」

 工藤くんが、私の耳元でつぶやく。

 彼の体温が、私へと伝わってくる。
 それは、すごく温かくて、悲しくなるくらい、優しくて。

 私は気がついたら、工藤くんの背中に手をまわしていた。

 工藤くんの体を、優しく抱きしめる。

「結希ちゃん、好きだよ…。」

 彼は、涙声でささやく。

「俺まで悲しくなっちゃうからさ、」

 それでもその声は、相変わらず爽やかだった。

「だから、泣かないでよ…。」

 ひときわ大きな音がして、夏の夜空に、より一層大きな花が咲く。
 鮮やかな赤い花。

 その花が、抱きしめあう私たちの涙を、美しく照らした。