「私は、私、は…。」

 どうしよう。

 どうすれば、自分の気持ちに嘘をつかずにすむ?
 どう言えば、工藤くんを傷付けずにすむ?

「工藤くん、私、」
「分かってるよ。」

 唐突に、工藤くんが口を開いた。

「フラれることなんて、最初から分かってる。」
「え…、」

 思わず、声が裏返る。

「結希ちゃんはさ、あの、一ノ瀬って人が好きなんでしょ?」

 図星。

「図星でしょ?」

 さらに図星。
 工藤くんは、私の心が読めているのかな?

 私は、小さくうなずいた。

「それでも俺は、結希ちゃんのことが、好きだよ。」

 工藤くんは、相変わらずの、爽やかな笑顔で言う。
 でも、その声には、どこか寂しさが混じっているようだった。

「だから今日こうして、気持ちを伝えようって思ったんだ。」

 私は、なんて言えばいい?

 工藤くんはこうして、私のことを必死に考えてくれているのに。
 それなのに。

 私は、自分のことばっかり。

 工藤くんを傷つけたくないって思うのだって、結局、自分が傷つくのが嫌だからなんだ。

 私が言葉に詰まっていると、工藤くんは優しく言う。

「返事は、今じゃなくていいんだ。ゆっくり考えてほしい。ただ、」

 彼はそこで、言葉を1度切った。
 そして、寂しそうに微笑むと、爽やかに言った。

「俺っていう男もいるっていうこと、忘れないでほしい。結希ちゃんのことを本気で好きで、大切だって思っている男もいるってことを。」

 私の視界が、涙でにじんだ。