惚れたら最後。

SIDE 絆



昨日は幸せだったのに、今の気分は最悪だ。

昨夜、琥珀に改めて告白し、正式に付き合うことになって浮かれていた。

しかし油断していたらまさか勝手に入ってきた刹那と鉢合わせるとは。



「悪い、琥珀。気使わせて」



嵐のように過ぎ去った刹那。俺は静かになった室内で琥珀に謝った。



「いいよ、大丈夫。兄弟って歳近いと喧嘩するっていうし。
私はだいぶ離れてるから分かんないけど」



淡々とそういう琥珀に、度胸があるとしみじみ感じた。

琥珀の端正な顔を見つめていると、憂雅が俺の前に立ち頭を下げた。



「すみません若頭、これからはもっと考えて慎重に行動します」

「いや、俺も言いすぎた。そんな硬くならないでくれ。
お前とはギクシャクしたくない」

「いや、今回ばかりは俺の落ち度だ。ごめん頼りない補佐で」

「そんなこと思ってねえよ」



お互いのハリのない声を聞いて、琥珀が腕を引いてきた。



「絆、とりあえずゆっくり寝た方がいいと思うよ」

「……ああ」

「考えすぎも良くないから。ほら、寝室行こう?時間になったら起こしてあげる」



あえて2人を引き離そうとする琥珀。実に正しい判断だと思った。



「憂雅さん、あなたも少し寝た方がいいと思います。
今仮眠とってる人、私が来た時から眠ってたでしょ?もう5時間すぎてるから充分じゃないですか?」

「ああ、そうだな。そうするよ」



俺は琥珀に手を引かれながら考えた。

どうして琥珀は観察眼が鋭いのだろうと。

至る所に気が付き、最善を選ぶことの出来るその勘と洞察力には驚かされる。

普通の人生を歩んでいればそこまでには至らない。きっと彼女は裏社会に近い人間だ。

……琥珀、お前はいったい何者なんだ。

俺は喉元まで出かかったその言葉を胸の内にしまい込んだ。