惚れたら最後。

へえ、コハクって名前の通り、綺麗な瞳してんな。

間近に迫ったその美貌とキレイな瞳に驚いた。

彼女が近づいてきて絆は一瞬気をゆるめたので、俺はその隙に畳み掛けた。



「おいおい、他人が口を挟むなよ。
見りゃわかるだろ、触れちゃいけない空気だって。
それなのに近づいてくるとか、わざと?そうじゃなけりゃよほどの馬鹿だな」

「おい刹那、俺のことはいいが琥珀は───」



絆がそう言いかけたその時。

琥珀が腕を広げ絆に抱きつき、横目で俺に笑いかけた。



「だったら、なぁに?」



その発言、美しい琥珀色の瞳に透けた“策略”。

そっかこの女……場を収めるためにあえて近づいてきたんだ。

彼女の言動ひとつでその賢さを知り、一気に怒りの感情が引いた。



「ぶふっ、アハハハ!俺の負けだ。
君ってずいぶん頭がいいんだね、コハク」



自分以上に頭が回る賢い人間に出会い、一杯食わされた俺は高らかに笑った。

それを見ていた憂雅と絆は、まるでおかしなものでも見るかのようにみつめている。



「そう?私とあなた、なんだか同じ匂いがして」

「へぇ〜、じゃあ君もそうなの?」

「あなたよりはいっぱい秘密抱えてると思うよ」

「ふぅん」



不可思議な女の登場に、今までの感情が全部どうでもよくなった俺は絆に背を向けた。



「どこ行くんだ」

「帰る。もうここに用はないし」



回収したゲーム機とコーラを抱え、扉の前までゆっくり歩く。

そしてくるりと振り返り意地悪く笑った。



「絆、コハクって魅力的だな。せいぜい俺に盗られないようにしっかり捕まえとけよ」



ふと目が合ったコハクは、この発言が冗談だと分かったのかクスリと笑っていた。

対する絆は余裕がなく彼女をひしと抱きしめ「だれが渡すか」と怒り(たけ)っている。

こりゃ面白いことになったな。部屋を出た俺はほくそ笑んだ。