惚れたら最後。

「荒瀬刹那……?」

「は?なんで俺の名前……えっと、どなた?」



すると、奥の部屋からガタガタ!と大きな音がしたかと思うと、彼女は突然開いたドアから伸びた手に引っ張られ、部屋の中に引き込まれた。

そして入れ替わりに出てきたのは、鬼の形相をした半裸の絆だった。



「見たな」

「何だよその怪談みたいなセリフ」

「あぁ?」



絆はかなりのご立腹だった。

今にも掴みかからん勢いで、ずんずんと大股でこちらに近づいてくる。

生命の危機を感じた俺は手に持ったコーラ片手に後ずさりした。



「絆!もしかして刹那がここに……あぁ!刹那!!」



そこにタイミングよく部屋になだれ込むように入ってきたのは憂雅だ。

俺はは胸を撫で下ろした。



「憂雅、てめえなにしてんだよ。刹那と琥珀が鉢合わせたじゃねえか」

「あ、もしかして俺が事務所通った時トイレ行ってたのって憂雅?」

「……ありえねえ、お前それでも若頭補佐か?」



怒りの矛先が自分ではなく憂雅に向いたからだ。



「……面目ない」

「他の組員はどうした?」

「……ひとりは仮眠とって、他の奴らは俺から息抜きしてきていいぞって、麻雀に行かせた……」



憂雅がそう白状すると、絆は深くため息をついた。

そして息を吸い込み怒りをあらわにした。



「そんなゆるいことするから、舐められてんだよ俺たちは!
ただでさえ若いからって足元見られてんだ、いい加減にしろ」

「ごめん……」



ええー、ガチギレしてんじゃん絆。大人気ない。

あの女見られたのがそんな嫌だったのか?

絆より年上なのに叱責され、さすがに憂雅が可哀想になって二人の間に割って入った。



「ごめんごめん、俺はただゲーム機回収しに来ただけなんだよ。
勝手に入って悪かったって。すぐ出ていくからさ」

「刹那、てめえ琥珀を探りに来たのか!?琥珀のことじいさんにチクったんだろ!」

「……なあ、そのコハクっていう出会って間もない女より、俺の事信じられねえの?」

「信じられるか、お前はどうせじいさんの回し者だ」

「あっそ」




俺がお前のためにどれだけじいちゃんを説得したかも知らないで……。

怒りを覚えたけど、気分を変えようとペットボトルのコーラをパキッと開けて、本音と一緒に飲みこんだ。