「じいちゃん、来たよ」

「まあ刹那、いらっしゃい!」

「……刹那か」



いつもの部屋に入ると、初老の厳つい顔の男性と、朗らかに笑うご婦人がいた。

この人たちは俺の祖父母だ。

じいちゃんは息子である父さんに組長の座を明け渡した際に本家を譲り、新たに木造家屋を建てばあちゃんと共に人生の余暇(よか)を楽しんでいる。




「待ってたのよ刹那。あ、お茶をいれてくるわね、お菓子もあるからたんとお食べなさい」

「いいってばあちゃん、来る度にそんなもてなしてもらわなくていいから……って、もういないし」



嬉しそうに立ち上がり部屋の外に出た祖母を追うも、後ろ姿が見えない。

どうしておばあちゃんという存在は孫にたらふく食い物を食わせようもするのだろう、と考えながら部屋に戻ると、二人がけのソファーに座っていたじいちゃんに手招きをされた。



「座れ、刹那。この前の続きをしよう」



ソファーの前に設置されたガラステーブルの前には、囲碁盤が置かれている。



「いいよ、この前は引き分けだったもんな」



快く笑顔で引き受けて向かい合わせの1人がけのソファーに座り、碁石を手に取った。

一見、仲良さげな祖父と孫だけど、組の者にとってこの光景は“異様”らしい。

全盛期は金獅子(きんじし)と恐れられ圧倒的権力を誇っていたじいちゃん。

極道の名を体現したかのような風貌には、妻であるばあちゃん以外は誰も対等に接することができなかった。

しかし、孫である俺とはなぜか非常に仲が良い。

よく組員に言われる。

『次男坊の刹那は獅子すら抱き込む人たらしだ』と。