惚れたら最後。

やっぱりあそこで待ち伏せしていたのは絆だったのか。

脳内はやけに冷静に情報処理をしたが、彼の顔を見ると感情が抑えきれなかった。



「流星が頭から落ちて出血してる……熱もあったみたいなの。早く救急車を呼ばないと!」

「診せてくれ………階段のどこから落ちた?」

「半分くらい上ったところ……」

「なら大した高さじゃない。出血もさほど多くない。
すぐに医者に見せれば大丈夫だ。病院まで俺たちが運ぶ」



俺が運ぶと宣言した絆は、涙が流している私にギョッとした表情を見せ、それから困惑した様子に変わった。



「泣くな、大丈夫だから。ほら、俺が運ぶからこっちに渡せ」



言う通り弟を渡し、そっと優しく運ぶ絆の後ろに力なくついていく。

きゅっと不安そうに手を繋いできた星奈も泣いていた。




「え?おいおい、レディふたりも泣かすなんて何やってんだよ」



後部座席のドアを開けると、車の運転席にいたのは鳴海憂雅だった。

どうやら二人だけで私を探しに車を走らせたらしい。



「弟が階段から落ちたそうだ。このまま病院に行ってくれ」

「は?ああ、そういうことか……分かった。お嬢ちゃん、助手席においで」

「……はい」



星奈はポロポロと涙を流しながら助手席のドアを開けた。



「あらら、ごめんな。知らない人に追いかけられて怖かったね。
今からリュウセイを病院に連れていくからな」

「うん、流星のこと……助けてあげて」

「よしよし、もう大丈夫だよ」



子供の扱いに慣れているのか、憂雅は星奈の頭をポンポンとなでて優しい笑みを浮かべた。

絆は流星を後部座席に運び入れると、私の目を見て手招きをする。

迷っている場合などないのに思わず躊躇(ちゅうちょ)してしまった。



「おいで、“琥珀”」



そんな私を見かね、絆は私の腕を掴み車内にたぐりよせた。