惚れたら最後。

「ごめんなさいお話中に!その子、あたしの知り合いなの!」

「ああ、そういうことか。びっくりしたよ、急にちびっ子が乱入してきたから。
僕、ママはどうした?……ん?」

「涼風、知り合いだからってここに連れてきちゃだめ……あれ?見覚えあるなぁ、君」




聞き覚えのある声に身体が強ばった。

間違いない。鳴海憂雅と荒瀬倖真、あのみずがめ座流星群の降る夜にあった男たちだ。

彼らは会議室の端で固まっている流星に近づいてその顔を凝視している。

まずい、今日は変装もしていない。

この姿は明るいところでは目立つ。

ここはそっと退室して、涼風に流星を外まで連れて来てもらうのが賢明だ。

なんとかこの状況の突破口を探していたが、もうひとりの男がこちらに振り返ったことで、頭が真っ白になった。

端正な顔立ちの、憂いを帯びた表情の男がこちらを見ている。

その顔が誰なのか認識したとたん、あまりの衝撃に目を見開いた。






……荒瀬絆!?どうしてここに!






本心では会いたくて、それでも最も会いたくなかった男の姿があった。

私はいてもたってもいられず会議室の外へ出た。

震えが止まらない。

秘密が壊されてしまう、その恐怖に支配されていた。

震えながら廊下で待っていると流星が鳴海憂雅と手を繋いで出てきた。



「すみません、すみません」



しゃがみこみ流星を抱きしめると、うつむき加減にひたすら謝り通した。



「いやいや、子どものしたことですから」

「いえ、私の監督不行届です。申し訳ございません」



床を眺めながら謝り続けて、ふと眼前に鳴海憂雅ではない男の姿があることに気がついた。

そんな、部屋から出てくる気配がなかった。

目の前にある黒の革靴はおそらく荒瀬絆のものだ。

私は生きた心地がしなかった。