作業を始めて数分後、また荒瀬絆から連絡が入った。



───同時進行で申し訳ないが、例の琥珀という女のデータが欲しい。
差し支えなければなるべく早めの提出を頼む───



私は言葉を失った。

……勘違いじゃなかった。荒瀬絆は私を───

本当に、好きなのかもしれない。

彼に求められていると思うと正直嬉しかった。

あの夜の優しさは勘違いじゃなかったんだ。

しかし、私はぐっと唇を噛んでその依頼に返答した。



『残念ですが、あなたの想い人なら海外に移住したようです。
あなたに近づいたのは、日本での最後の思い出作りだったと聞きました』



その文面と共に、(あらかじ)め用意しておいた偽造のメッセージのやり取りを証拠として送った。

そこから荒瀬絆の返信はなかった。


「……はぁ」


……これでいいんだ。私たちは結ばれてはいけない。

私の“もうひとつの秘密”を知ってしまえば、荒瀬組が許してくれるわけがない。






それから、荒瀬組の管理システムを変え以後の情報の流出は抑えられたものの、一向に黒幕の正体が掴めないまま、4ヶ月もの月日が流れた。