惚れたら最後。

「もし闇に生きる者なら、あなたの前に二度も現れたりしないでしょうし、本名を晒すなんて馬鹿な真似しません」

「そんなの分かってる。だからそんな警戒するなよ」

「あなたってなんでもお見通しなんですね。
疲れたのでもう帰ります。失礼しました」

「……そうか」



不自然なタイミングで帰ると言ったものの、彼は悲しげに肩を落とすだけで特に引き留められなかった。

それよりも己の甘さに後悔した。

甘かった。こんなに冴える男をたぶらかすなんて無理な話だ、と。



「琥珀、また話そう。これまで同様、毎日ここでお前を待ってる」



ドアノブに手をかけたその時、背後から声が発せられた。

え?これまで同様って?

疑問に思って振り返ると、優しく微笑む美青年の姿があった。



「長かったぞ、お前に初めて会ってから今日までの4ヶ月。
次はせめて季節が変わる前に会いたい。
まあ、これっきりになってしまえばその時はその時だ」

「嘘でもそんなこと言うなんてずるいですね」

「俺はちゃんと態度で示したつもりだが?
第一、お前に会ってからほかの女と一度もヤってない」

「ああそうですか」

「いつでも来いよ。22時過ぎたら大体ここにいるからな」

「……保障もないのに、強引な人。さよなら」



感情を表に出さないように努めていたけど、最後は笑って別れを告げた。