「はぁぁぁ、疲れたぁ」



ふたりきりになった直後、私は正座を崩して渋い顔で足をさすった。



「足痺れた、やばい。あーー、何度経験しても無理、組長怖すぎ」

「……」

「何?」

「いつもの琥珀だと思って」



私は足をさすりながら笑みをこぼした。



「いくら絆のお父さんでも素を見せることはできないなぁ。
何度会っても慣れないよ、あの貫禄には」

「今日はだいぶ優しかったけどな」

「機嫌よくても十分の迫力だよ。さて……」



痺れた足でよろよろしながら立ち上がった。

絆が手を添えてくれたので掴まって足の痺れが収まるのを待ち、ふたりで足並みを揃えて歩き出した。



「……全部終わったね」

「ああ、ありがとう琥珀。全てお前のおかげだ」

「違う、荒瀬が窮地(きゅうち)を抜けたのは絆のおかげだよ。
私があなたと出会わなかったら、荒瀬組にこんな肩入れしなかった。
それこそ面倒ごとは投げ捨てて、海外に逃げていたかもしれない」



いくつもの分岐点をへて、私は絆と生きる道を選んだ。

面倒事ばかりの世界。以前の自分なら最も避けて通りたい道だろうけど、不思議と後悔はなかった。



「とにかく、体張ってものすごく頑張ったから、お寿司は絆の奢りね」

「どんだけ寿司が楽しみなんだよ」

「絆と一緒だから楽しみなんだよ」



素直に気持ちを伝えると絆はきょとんとした顔で目を丸くする。

次第にその頬は赤く染まっていき、絆はボソリとつぶやく。



「はぁ……好き」



不意打ちの愛の言葉は私の心を優しくあたためた。